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【ソリューションプロダクトフィットとプロダクトマーケットフィット#01】ソリューションプロダクトフィットとMVP

本シリーズでは3回に渡って、新規事業創出における顧客開発の検証活動、ソリューションプロダクトフィットとプロダクトマーケットフィットに向けた取り組みについてご紹介いたします。


・新規事業創出について検討したいが、どこから始めればいいかわからない

・新規事業チーム内の共通認識を作りたい

・新規事業創出にあたる検証活動を理解したい


といった方々のお役に立てますと幸いです。


本シリーズ・新規事業創出におけるソリューションプロダクトフィットとプロダクトマーケットフィットに関する記事の一覧



ソリューションプロダクトフィットとは

ここからはソリューションプロダクトフィット(SPF)の検証活動についてみていきます。



ソリューションプロダクトフィットでは「解決策をプロダクトとして実現できているかどうか」を検証します。前章まで進めてきたプロブレムソリューションフィットまでに、顧客の課題を発見し、提供すべき価値を検証し定義できていることが重要です。ソリューションプロダクトフィットの検証活動に取り掛かる前に、ここまでの仮説構造を改めて整理していきましょう。


まず事業コンセプト仮説があります。この事業コンセプト仮説を実証するための活動として、顧客課題の仮説としてのカスタマープロブレムフィット、課題解決の仮説としてのプロブレムソリューションフィット、それぞれの検証活動を進めてきました。ソリューションプロダクトフィットでは顧客が持つ課題と、その課題を解決する価値を製品やサービスとして提供していくため、MVP(Minimum Viable Product)実用最小限の製品を用いながら検証を進めていきます。 


製品開発のステージとしてソリューションプロダクトフィットおよびMVPは下記図の箇所にあたります。後続のフェーズとして実際のプロダクトやサービスの開発、プロダクトをマーケットにフィットさせていく取り組みが控えています。


MVPとはなにか


まずはソリューションプロダクトフィットの検証活動において中核を担うMVPについて理解を深めていきましょう。


MVPはミニマム・バイアブル・プロダクト、日本語では「実用最小限の製品」と訳されます。完璧な製品・サービスを目指すのではなく、顧客が抱える課題を解決できる最小限の状態で提供し、顧客からのフィードバックなどを参考にしながら主要機能の見直し、最低限必要となる機能の洗い出しを図る目的でMVPを作成します。



MVPに対する誤解として「最小限の機能のみを満たす製品」というものがよくありますが、正しく検証するためには右図のように前章で特定したような価値を備える必要があります。継続的なイノベーションや追加開発などによってこうした三角形の面積を満たすことで、顧客を増やし、イノベーター理論におけるアーリーアダプター、アーリーマジョリティなどの成長ターゲットを獲得していくようなイメージを持っていただけると良いでしょう。


 MVPは必ずしも実際の製品やデジタルサービスとして機能する必要はありません。参考事例としてアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガスに本拠を構える靴を中心としたアパレル関連の通販小売店であるZapposがソリューションプロダクトフィットのため検証に用いたMVPをご紹介します。


Zapposの創業時は、メーカーごとに微妙に異なるサイズ規格のため購入前のフィッティングニーズが高く、インターネットで靴を購入することは消費者にとって一般的ではありませんでした。そうした市場環境の中、サービスの需要を検証するため、サイトで注文を受け付けるたびに創業者が靴を買いに行っては梱包し、配送するというプロセスを人力で行なっていました。これは「オズの魔法使い」と言われるMVP手法で、大規模なシステムやインフラを構築する前に人力で行う検証手法として有名です。日本でもカカクコムグループが運営するグルメレビューサイト、食べログも同様の手法を用いて初期ターゲットを獲得したことが知られています。 



このように、MVPという実用最小限の製品を用いてソリューションとプロダクトが合致しているかどうかを検証しながら、そのソリューションを顧客は利用するのか、ソリューションにニーズはあるのか、といったことを検証していきます。


MVPもプロトタイプの一つであることに注意し、最初から完璧な製品やサービスを目指すのではなく、顧客が抱える課題とその解決手段・手法を検証するものであることに注意してください。MVPを修正しながらテストを繰り返すことを前提とし、制作・検証にあたってください。



MVPを用いたテスト


MVPを用いたテストでは、顧客にMVPを触ってもらいながら「どこに価値を感じたのか」を聞き出していくと良いでしょう。提供価値を表などで一覧化し、反応のあった箇所をマークしていくなどがおすすめです。その際は「なぜそのように感じたのか」までを聞き出していくと、ソリューションプロダクトフィット以前の検証項目との答え合わせができるので、より有効な検証活動となります。



また、MVPを用いたテストでは意見だけでなく、事実ベースの検証ができるとよりよいでしょう。事実ベースの検証とは、たとえば「製品の購入意向」として、顧客が「購入します」と答えても実際には購入されないケースが多くありますので、意向を確認するのではなく、購入実績や申込実績といった確実性の高い検証を行うということです。顧客の言葉を鵜呑みにせず、慎重な検証を心がけてください。


売れる商品を特定しスケールさせる:SHEINの事例

ここでデジタル時代のものづくりとして、中国の越境デジタルコマース企業SHEIN(シーイン)の事例をご紹介させていただきます。


SHEINは総合的なサプライチェーンと成熟したモバイルコマースノウハウを活用し、2023年現在では推定時価総額が14兆円を超えています。先行していたスペインのZARAを展開するインデックス、日本のユニクロを展開するファーストリテイリングを抜き、世界1位のファッションブランドとして台頭しており、世界でもっとも注目される企業の一つであることは間違いありません。しかしながら同社はESGに関して幾つかの課題を抱えており、ここでの説明は彼らの戦略的事業展開の手法を参考事例としてご紹介するにとどめることをご留意ください。



SHEINはZ世代を中心に広がり、SHEINのスマートフォンアプリのダウンロード数は、2021年には小売業界の巨人Amazonを抜いたことが話題になりました。SHEINがZ世代の注目を集めるのは、商品の安さはもちろん、商品数の多さや新商品の投入スピードにあります。ファーストリテイリングが展開するユニクロの年間商品点数が1000点とされているのに対し、SHEINでは年間15万点以上の新しい商品が投入されています。常時約60万点を取り扱い、毎日約3,000〜6,000点の商品が次々と発表されており、顧客はSNSを眺めるようにSHEINのアプリを開き、まるでインスタグラムでお気に入りの写真をチェックしながらショッピングができるかのような体験が提供されています。


SHEINがこうした商品展開が可能な背景には、下記のような強みが挙げられます。 

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①AIを活用し、世界中で「売れる商品」を特定すること

②それらの商品を多品種、小ロットで素早く生産し、「試し売り」を繰り返すこと

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①ではAIを用いた画像解析技術を用い、デジタル化された情報を世界中から収集し「今何が売れているのか」「流行っているものはなにか」といったリサーチを行っています。こうして収集された情報を社内のデザイナーが整理し、新商品の企画を決めて生産に回します。世界各地の情報が本部に届いてから商品が決まるまで2〜3日という驚異的スピードで決定が進められています。 


②では「スピードの重視」「リスク回避」といった意味合いで、ごく少量の製品を生産し、販売します。商品の回転数が多いことで知られるZARAのミニマムのロットが500〜1000着と言われている中、SHEINでは100着で、それを5日ほどの納期で生産します。商品の企画から生産、販売開始まで1週間に満たない期間で生産され、オンライン上で100着のうち30着の注文が入ったタイミングで、システム上で追加生産指示が入ると言われています。 


こうして、SHEINの商品開発から販売まで「プロブレムソリューションフィット」「ソリューションプロダクトフィット」「プロダクトマーケットフィット」をシステマチックに、驚くべきスピードで回転させていることがわかります。


さらに最も重きを置かれている点は「売れる商品を特定する」ことで、特定するまではテストとして少量を生産し、販売実績という検証結果・データによって増産しスケールアップするというステップが踏まれています。SHEINの商品開発は、まさに「デジタル時代のものづくり」といえます。



次回:プロダクトマーケットフィットとは

次回は「プロダクトマーケットフィットとは」についてご紹介させていただきます。


 

【参考書籍】

・秦充洋『事業開発一気通貫 』日経BP出版、2022年

・北嶋貴郎『新規事業開発マネジメント』日本経済新聞出版、2021年

・廣田章光 『デザイン思考 マインドセット+スキルセット』日本経済新聞出版、2022年

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