本シリーズでは3回に渡って、新規事業創出における顧客開発の検証活動、プロブレムソリューションフィットに向けた取り組みについてご紹介いたします。
・新規事業創出について検討したいが、どこから始めればいいかわからない
・新規事業チーム内の共通認識を作りたい
・新規事業創出にあたる検証活動を理解したい
といった方々のお役に立てますと幸いです。
本シリーズ・新規事業創出におけるプロブレムソリューションフィットに関する記事の一覧
ヒアリングに向けた準備
プロブレムソリューションフィットにおける検証活動はプロトタイプを中心に行います。ここからは検証ためのヒアリングの前に準備しておきたいことを3つご紹介します。
1つめはここまでの仮説を再定義しておくこと、2つめはカスタマージャーニーマップ、3つめは上位下位価値分析です。
それぞれ詳しくご説明していきます。
ヒアリングの前に準備しておきたいもの①ここまでの仮説を再度定義しておく
ヒアリングの前に準備しておきたいものの一つ目は、ここまでの仮説の再定義です。
現段階での仮説は下記のような構造になっているはずです。まず大きな仮説として事業コンセプトについての仮説があります。これは『「提供しようとしている製品やサービス」は「既存の製品やサービスまたは、顧客が仕方なく選択していた代替手段」よりも「提供価値が高い」のではないか?』という事業自体の仮説です。この仮説を立証するために、顧客課題の仮説とその課題を解決するための仮説があります。
それぞれがこれまで進めてきたカスタマープロブレムフィット、プロブレムソリューションフィットで出てきた仮説です。カスタマープロブレムフィットは「顧客は〜という課題を抱えているのではないか?」という仮説を検証する活動であり、プロブレムソリューションフィットでは、「顧客はその課題を〜という手法で解決したいのではないか?」という仮説を検証する活動になります。
プロトタイプを用いたヒアリングなどをスタートする前に、まずはこうした仮説を再確認し、再定義しておきましょう。
ヒアリングの前に準備しておきたいもの②カスタマージャーニーマップ
ヒアリングの前に準備しておきたいものの2つめは、カスタマージャーニーマップです。カスタマージャーニーマップ自体の作り方などは以前の記事でご紹介した通りです。
顧客ヒアリングまでにカスタマージャーニーマップを準備しておきたい理由は、製品やサービスを利用する顧客の日常生活から、購入の検討段階、実際の購買行動、利用段階までに接触しうる様々なタッチポイントについて検討し、仮説を立てておくためです。こうした準備によって、ヒアリングを通じ相違点を発見しやすくなります。
「どこが違うのか」「どこからズレているのか」といった観点でヒアリングを進めることで、より深く顧客を理解し、仮説の見直しができるようになります。
ヒアリングの前に準備しておきたいもの③上位下位価値分析
ヒアリングの前に準備しておきたいものの3つめは、上位下位価値分析です。これはアイディエーション手法として紹介したバリューラダーに似た手法です。
カスタマージャーニーなどで分析した顧客の行動に対して、行動の目的、最上位にある本質的なニーズなどを探っていきます。ヒアリングで明らかにする事象や行動に対して、その目的やニーズについて仮説を持っておくことで、どの点で理解のズレが発生しているのかを発見することができるため、ヒアリング前に準備しておくと有効です。
カスタマージャーニーマップは事実ベースでの機能的価値や経済的価値の仮説構築、上位下位価値分析は心理的価値の仮説構築、分析に役立ちます。
プロトタイプを用いたヒアリングの進め方
ここからは、プロトタイプを用いたヒアリングの進め方についてご紹介していきます。
先にご説明した通り、プロブレムソリューションフィットのための検証活動には2つの役割があります。 1つめは、カスタマープロブレムフィットで定義した課題と、提供しようとしている製品やサービスの価値が合致しているかどうかを検証する役割。 2つめは、ソリューションや提供価値自体にニーズがあるかどうかを検証する役割です。ヒアリングではプロトタイプを中心におき「顧客理解」と「仮説検証」を繰り返しながら進めていきます。
それぞれの検証ポイントを下記に整理しています。
顧客理解においては、ヒアリングを通じてカスタマージャーニーや上位下位価値分析で立てた仮説を検証していきます。
顧客の活動や行動の実態、感情を理解することを重視します。また、プロトタイプを用いて、製品やサービスを通じて提供したい価値にニーズがあるかどうかを検証します。ヒアリングの時点で、顧客が「欲しい!」と、価格や購入方法まで詳しく尋ねてくれば大成功です。しかしながら、そうでないケースがほとんどです。提案する価値のどこにニーズがあるのか、またはニーズがないのかを突き止める必要があります。
ヒアリングの具体的な進め方は下記の通りです。
まずはヒアリングの趣旨について説明しましょう。ヒアリングの目的、自己紹介、想定している時間などを事前に伝えておくと良いでしょう。また、ヒアリングの中で答えたくない質問などがあれば「無理に回答していただかなくて結構です」と、ヒアリングは尋問でないことや対象者と一対一でフラットな関係性で行うことを伝え、安心感を持ってもらうことも重要です。
つぎに相手の属性を理解するための質問を進めていきます。顧客セグメントとして普段の生活や価値観などを想像できる程度まで聞き取りができるのが理想的です。年収などの質問は相手のライフスタイルを想像するのに効果的ですが、関係ができないうちにぶつけてしまうと、相手の心にバリアを作ってしまうことになってしまい、有意義なヒアリングにならない場合がありますので注意しましょう。
そして顧客を理解するための質問を続けていきます。普段の生活や購買行動、課題などを聞いていきます。ここでは先に準備したカスタマージャーニーの答え合わせをするように顧客を理解していくとよいでしょう。
そこからプロトタイプを用いた検証のための質問を進めていきます。 ヒアリングしたい内容が一通り完了したら、似たセグメントの顧客に知り合いや思い当たる人物がいれば紹介して欲しいという依頼をすることも効果的です。
最後に、今後追加の質問をしたい可能性があること、追加質問の可否や連絡経路についても尋ねておきましょう。分析を経てもっとも初期ターゲットに近い、ということがわかれば有力な検証のパスとなるはずです。ヒアリングの最後にはこのようにして次の機会につなげておくことをお勧めします。
ヒアリングの分析
ヒアリングの後は必ずチームで分析を行いましょう。
分析の方法は、以前ご紹介したように、ブレインストーミングから親和図法で行っても、表形式で分析していく形でも構いません。ヒアリングの分析において重要なことは、ヒアリング前に立てた仮説をどのように検証できたかということです。仮説が間違っているとしたら原因はどこか、根本的なところまで遡る必要があるのか、枝葉の部分のみでいいのか...チームで結果を共有しながら分析を行ってください。
ヒアリングの前に行った、仮説の再定義、カスタマージャーニーマップ、上位下位価値分析などはこうした検証・分析の際にも役に立つはずです。
仮説の修正、プロトタイプの更新...検証を繰り返す
プロブレムソリューションフィットでも、カスタマープロブレムフィットと同じく仮説構築と検証を繰り返してください。それと合わせてプロトタイプも随時更新していく必要があります。こうした検証活動にプロトタイプは必須となりますので、本動画でもご紹介した通り、プロトタイプは素早く何度も修正できること、コストをかけずに実現できることを重視し準備しましょう。
近年は様々なデジタルツールの発達で、プロトタイプ作り自体のハードルも下がっていますので、ぜひご自身やチームで手を動かしトライしてみてください。
さいごに
ここまで3回に渡り新規事業創出における顧客開発の検証活動、プロブレムソリューションフィットについてご紹介してきました。最後にお断りをしておくと、これらは新規事業を創出するにあたり知っておきたい基本的な概念となります。実際のプロジェクトではこうした基本的な知識のほか、さらに専門的な業界やビジネスの知識や経験が求められます。
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【参考書籍】
・秦充洋『事業開発一気通貫 』日経BP出版、2022年
・北嶋貴郎『新規事業開発マネジメント』日本経済新聞出版、2021年
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