本シリーズでは3回に渡って、新規事業創出における顧客開発の検証活動、プロブレムソリューションフィットに向けた取り組みについてご紹介いたします。
・新規事業創出について検討したいが、どこから始めればいいかわからない
・新規事業チーム内の共通認識を作りたい
・新規事業創出にあたる検証活動を理解したい
といった方々のお役に立てますと幸いです。
本シリーズ・新規事業創出におけるプロブレムソリューションフィットに関する記事の一覧
プロブレムソリューションフィットとは
ここからは、製品やサービスを通じて具体的に提供する価値を検討していきます。
プロブレム ソリューション フィットとは、顧客が抱えている課題=プロブレムと企業が提供している解決策=ソリューションがフィットしている状態を指します。
前工程で定義・検証してきしたカスタマープロブレムフィットに対し、さらにプロトタイプや、プロトタイプを通じたユーザーヒアリングを実施し、提供すべき価値を特定していきます。
さまざまな価値
ここでは製品やサービスを通じて提供する価値について考えていきましょう。
一口に提供価値と言ってもさまざまなものがあり、顧客ごとに受容されるもの・求められるもの・価値を感じるものが異なることに注意しましょう。また、チームで提供価値を明文化し共有しておくことも非常に重要です。明文化の際は下記のような図も用いながら定義することを推奨します。
検討すべき価値としては、大きく機能的価値、経済的価値、心理的価値に分類されます。
心理的価値は情緒的価値、とも言われますが同様の概念です。 機能的価値は物理的に提供される製品やサービス、それらがもたらす具体的な機能の価値です。次に経済的価値とは、費用節約や時間短縮などの経済的メリットになります。そして心理的価値とは、満足感や優越感、自己表現などの心理的メリットなどが入ります。
パーソナルフィットネスのライザップが監修する24時間ジム、ちょこざっぷを例にご説明いたします。ちょこざっぷは2021年にテストマーケティングとして3店舗展開し、2022年には200店舗、会員数は10万人を超えています。「運動嫌い・苦手な人のためのコンビニ感覚で通える24時間ジム」をコンセプトとし、安価な月額費用、アクセスのよい立地で隙間時間に通いやすい、などといった価値を提供しています。
ちょこざっぷの価値を分類すると、機能的価値としては利便性の高い場所、隙間時間にさっと使える、運動靴やウェアの準備が不要、などといった価値があることがわかります。経済的価値としては時間短縮、安い会費、などが当てはまります。先ほどあげた運動靴やウェアが不要、と言う観点は新たに購入する必要がないという意味では経済的価値にも貢献していると考えられます。そして心理的価値としてはライザップ監修という観点での安心・信頼感と、運動という健康への配慮や投資による自己実現を支援していると考えることができます。
機能的価値のみの提供は、経済的・心理的価値において優位性のある他のサービスや製品に置き換えられてしまう場合があるため、複合的な価値提供を目指しましょう。経済的価値や心理的価値を、顧客の視点や言葉で説明できるのが理想的です。このようにサービスや製品の価値を考える際、誰にとってどのような価値が求められるのか定義するには、ユーザーや顧客への深い理解が求められます。
ニーズ・ウォンツ・デマンド
さらに顧客の価値を検討する視点として、ニーズ・ウォンツ・デマンドについてご紹介いたします。これらは価値の深さを理解するための指標として用いることができます。階層構造としては下記のような図で説明できます。ニーズは「根源的価値」ウォンツは「表層的価値」デマンドは「具体的価値」といった日本語で表現できます。
具体的価値としてのデマンドは、具体的な需要や欲求を満たすもので、時計が欲しい、服が欲しい、といったものです。ウォンツは表層的価値として、人の気持ちの表層に現れる欲求を満たすものです。デマンドよりも抽象的な価値が相当し、着飾りたい、おしゃれをしたい、などといったものが相当します。そして根源的な価値としてのニーズはさらに根源的な欲求を満たすものです。ウォンツよりもさらに抽象的になり、個性的でありたい、外見によって自分を表現したい、などが当てはまります。
図のように、デマンド、ウォンツ、ニーズの順番で価値は深くなり、深くなればなるほど人としての欲求が高まり抽象度が高くなります。機能的価値・経済的価値・心理的価値を検討する際に、どこまで根源的な価値を提供できているのかという観点でも見直してみると良いでしょう。
バリュープロポジションキャンバスを用いた整理
顧客へ提供する価値を整理、明文化するためのフレームワークとして、バリュープロポジションキャンバスをご紹介します。
プロブレムソリューションフィットで重要視していただきたいのは、顧客の持つ課題に対して適切な価値を提供できているか、という観点です。その意味で顧客課題と提供価値は表裏一体であると言えます。カスタマープロブレムフィット段階で定義した内容を右側のフレームに納め、提供する価値を左に整理します。
まずは顧客セグメントを定義します。ヒアリングを通じて明確になった顧客像や彼らの特徴を記入します。次に下の②③④を順番に埋めていきます。
②は 顧客が解決したい課題、ジョブです。顧客が解決したい課題について、できる限り主観を捨て、客観的に検討し整理します。
③はゲイン、顧客の利得が入ります。その課題を解決することにより、顧客が何を得るのか、どんなメリットがあるのかを記入します。
④はペイン、顧客が感じる悩み、解決への足枷などがはいります。これらはカスタマープロブレムフィット検討時に作成した共感マップを見直しながら記入していきましょう。
右側が完成したら、次に左側⑤⑥⑦⑧を埋めていきましょう。提供価値は顧客セグメントで記入した内容に対応しています。解決したい課題に対して提供する「製品やサービス」が⑤に、「製品やサービス」が提供するメリットや価値が⑥に、顧客のペインを「取り除く手段」が⑦に入ります。
バリュープロポジションキャンバスは、製品やサービスと顧客ニーズのずれを解消するためのフレームワークです。プロブレムソリューションフィットでは提供価値の具体化と検証活動の中でぜひ取り入れ、活用していただけると嬉しいです。
提供価値を具体化して考える、カスタマージャーニーマップ
ここでは顧客理解を深めるフレームワークとして、カスタマージャーニーマップをご紹介いたします。
カスタマージャーニーマップは、顧客の日常生活から、購入の検討段階、実際の購買、利用段階までに接触しうるさまざまなタッチポイントについて、包括的かつ視覚的に捉えるものです。 カスタマージャーニーマップは下記のように、左から右へ時系列に書き込みます。
カスタマージャーニーマップを作成する目的は大きく2つあります。
1つは、顧客の行動を観察し理解を深めることで、顧客自身も気づいていないような課題や悩み、困りごとやペインなどを見つけ出すことです。これは主にカスタマープロブレムフィット段階での利用です。
2つめは提供するサービスや製品が、顧客の日常的な行動の中で本当に彼らの課題を解決しうるのかを検証するために用います。ここまで整理したサービスをあてはめ、繋がりを整理することで、後続のプロトタイプを用いた検証活動の精度を高めることができます。
カスタマージャーニーマップを制作する際の留意点を下記にまとめます。
①具体的な行動を聞き取る:ヒアリングなどを通じて顧客が具体的にどうしているのか、その背景にはどんな理由があるのか、それはどのようなチャネルで行われるのかを細かく聞き取り整理します。ここでは「きっとこうだろう」「普通はこうだ」といった先入観をベースに作成しないよう気をつけてください。
②では、顧客の行動から妥協、課題、悩みの気づきを抽出しましょう。具体的な行動の裏に隠された顧客も気づいていないインサイトを発見することに努めてください。
③は妥協、課題、悩みから提供価値、解決方法、接触チャネルを起こし込んできます。バリュープロポジションキャンバスで作成した内容を顧客の行動に落とし込み、顧客の行動や体験の中でソリューションや提供価値がきちんと機能するかどうかを確認します。 さらにユーザーヒアリングを重ねながらソリューションとして機能するかを検証していきます。
チームでの新規事業創出プロジェクトに取り組む際はこうしたフレームワークを活用し仮説を可視化することで、メンバー間の認識の齟齬を減らしていくことが重要です。
次回:ニーズ検証とプロトタイプ
次回は「ニーズ検証とプロトタイプ」についてご紹介させていただきます。
【参考書籍】
・秦充洋『事業開発一気通貫 』日経BP出版、2022年
・北嶋貴郎『新規事業開発マネジメント』日本経済新聞出版、2021年
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