本シリーズでは4回に渡って、プロジェクトデザインについてお伝えしていきます。
新規事業や既存事業の高度化などでプロジェクトをスタートされる場合、やみくもにプロジェクトを始めても、うまく行かない場合がほとんどです。プロジェクトを始める前に、プロジェクトとプロジェクトデザインの全体像を理解しましょう。
プロジェクトとは言うまでもなく、特定の目的を達成するために計画された期限がある活動のことです。新しい事業を興すためのプロジェクト、今までのビジネスをもとに新たな領域を探すためのプロジェクトなど、さまざまなケースがあります。
・プロジェクト推進力を高めたい
・プロジェクトを推進できる人材を育成したい
といった方々のお役に立てますと幸いです。
プロジェクトデザイン7つのステップ
プロジェクトデザインは次のように7つのステップに分けることができます。
ステップ1ではプロジェクト目標を定義します。KGI(Key Goal Indicator=重要目標達成指標)や要求の定義を行います。
ステップ2では目指す結果を決定します。目標に対しどのくらいの達成を目指すのかを決定します。
ステップ3ではリスクと制約を特定します。先に紹介したQCDのトレードオフやプロジェクト内外・組織内外のリスクを特定します。
ステップ4では戦略の調整を行います。ステップ3で明確になったリスクや制約によって戦略を見直し、達成可能なプロジェクトを検討しましょう。
ステップ5では予算の見積もりを行います。必要な人員、スケジュール、調達すべき資材の費用などが見積もりの対象となります。見積りによってはステップ4の戦略を見直す必要があることに注意しましょう。
ステップ6ではバックアッププランの計画を行います。バックアッププランはプランBと呼ばれることもありますが、本命のプランAが頓挫した場合に発動する次善の策や代替プランを意味します。アンコントローラブルなリスクが多いプロジェクトではプランCやDまでを考慮する場合もあります。
そして最後のステップ7ではマイルストーンと評価軸の策定を行います。マイルストーンとは作業やプロジェクトのタイムライン上にある特定の到達点 (中間目標)を指し、先に紹介したフェーズゲートとも似た概念です。プロジェクトにおける評価軸とは、アウトプット・アウトカム・ベネフィットなどの成果や貢献、KPI(Key Performance Indicator=重要達成度指標)を指します。プロジェクトの完了時にどのように評価を行うかをあらかじめ決めておくことで、チームメンバーの目線を合わせることができるでしょう。
このように7つのステップを経てプロジェクトデザインを進めていきます。
この中でも特に重要な「目標」「戦略」「評価」について次から詳しくご紹介していきます。
プロジェクト指標管理と戦略
プロジェクトの指標管理では、一般的に次のようなツリー構造が用いられます。KGIを最上位におき、KSF(Key Success Factor=重要成功要因)、施策、KPIがツリー形式に並ぶ構造は皆さんの業務でも馴染み深いのではないでしょうか。
先に用いたプロジェクト例「お問い合わせ数の向上を目的としたWebサイト改善プロジェクト」をここでも活用し考えていきましょう。
まず、KGIには「お問い合わせ数の向上」が入り、KSFには「サイトの流入数向上」「お問い合わせ率の向上」が入るとします。そこから取りうる施策は「広告出稿」「SEOの改善」「サイト内コンテンツの改善」「ダウンロード資料やホワイトペーパーの設定」などが考えられます。そこからKPIとしては「広告クリック数」「Webサイトの閲覧者数」「Webサイトの滞在時間」「Webサイトの離脱率」「ダウンロード資料やホワイトペーパーのDL数」などが該当します。
このプロジェクトでは「お問い合わせ数の向上」という目的において、「Webサイトの改善」という施策が事前に定められているため、基本的には右の流れを取ることになりますが「戦略」を考慮すると、施策に対してかけられるコストや現在のアクセス状況などを分析した上で左の流れを取る判断を行う場合も考えられます。
「戦略を調整する」際にはこのように、施策に対してリソースやコストは十分か・施策は自社の強みにフィットしているかという観点が重要です。
プロジェクト指標管理と評価
ここからはプロジェクトの評価についてご紹介いたします。評価においても先に定めたKGI・KSF・施策・KPIのツリー構造を用いて行うことをお勧めします。
評価の進め方はツリーの下部から上部に遡るように行います。
まず、わかりやすい評価としては「KPIを達成したかどうか?」です。KPIの評価において重要なことは先の例のように「Webサイトの閲覧者数」「Webサイトの滞在時間」「Webサイトの離脱率」「ダウンロード資料やホワイトペーパーのDL数」など定量的に評価できる指標を用いることです。
次に「施策は成功したか?」という観点で施策を評価します。それぞれのKPIを達成できた場合は「施策が成功した」と判断してよいと考えられます。
そして「施策の成功がKSF達成に繋がったか?」という観点で、KPIや施策の達成によって「お問い合わせ率の向上」に繋がったかどうかを評価します。施策の成功がKSFに繋がっていない場合は、施策が間違っている可能性があるため施策の見直しが必要となります。
最後に「KSFの達成がKGI達成に貢献しているかどうか?」という観点で評価を行います。施策やKSFまでの達成をクリアしているにも関わらず、最終的に「お問い合わせ数の向上」に繋がっていない場合はKSFが間違っている可能性があるため、同様に見直しが必要となります。
しかしながら、最も重要なのは「お問い合わせ数の向上」によって「会社利益の向上に繋がったかどうか」という観点です。お問い合わせ数は向上したが、リードの質が悪化していたりコンタクトセンターのコストが増大するといったケースは最終的に会社のベネフィットに繋がらず、プロジェクトの成功に反し評価を得られない場合があります。与えられたKGIを鵜呑みにせず、本当に利益やベネフィットにつながるのかどうかは注意深く検討すべきです。
プロジェクトの指標管理や評価においては、こうした観点を念頭におきプロジェクトデザインを進めていただければ幸いです。
集団の進化ステップとリーダーの役割
プロジェクトリーダーの役割として、先に「プロジェクトデザイン」「プロジェクトマネジメント」「プロジェクトファシリテーション」を挙げ、ここまで4回にわたりプロジェクトデザインについてお伝えしてきました。最後に隠れたプロジェクトリーダーの役割として「集団の進化を促進する」ことについてご紹介いたします。
プロジェクトはその性質や領域によって、都度メンバーがアサインされます。様々なバックグラウンドや専門性を持つメンバーが集まり、プロジェクトのゴールに向けて協同することになります。
これは「タックマンモデル」と呼ばれる集団の進化ステップで、チームがプロジェクトを通じてどのように進化するのかを示しています。形成期ではアサインによってメンバーが集められチームとして形成されます。プロジェクトの初期に混乱期を迎え、混乱期に規範を形成することによって統一期を迎え、チームとして成果を生み出す機能期では最も高いパフォーマンスで相互に連携が取れた状態となります。そこからプロジェクトの終結に応じてチームも散会期を迎えます。
このように、チームが集団の進化をできるだけ早く駆け抜け、メンバーが集団の一員として最大の成果が出せる状態にいたらせることもリーダーの役割と言えます。こうした働きかけは「チームビルディング」と呼ばれることがありますが、一般的なチームビルディングは形成期にスコープを当てている場合が多いため、機能期を目指して取り組むべきであることに注意しましょう。
さいごに
ここまで4回に渡りプロジェクトデザインについてご紹介してきました。最後にお断りをしておくと、これらはプロジェクトをデザインするために知っておきたい基本的な概念となります。実際のデザインプロジェクトではこうした基本的な知識のほか、さらに専門的な知識や経験が求められます。
私たちILY,は様々なデザインプロジェクトの支援を行っています。ぜひお困りごとがございましたらお気軽にご相談ください。
【参考書籍】
・中鉢慎『外資系コンサルが教える難題を解決する12ステップ プロジェクトリーダーの教科書』かんき出版
・グロービズ『ファシリテーションの教科書: 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ』東洋経済新報社
・飯野謙次『仕事が速いのにミスしない人は、何をしているのか?』文響社
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