本シリーズでは4回に渡って、プロジェクトデザインについてお伝えしていきます。
新規事業や既存事業の高度化などでプロジェクトをスタートされる場合、やみくもにプロジェクトを始めても、うまく行かない場合がほとんどです。プロジェクトを始める前に、プロジェクトとプロジェクトデザインの全体像を理解しましょう。
プロジェクトとは言うまでもなく、特定の目的を達成するために計画された期限がある活動のことです。新しい事業を興すためのプロジェクト、今までのビジネスをもとに新たな領域を探すためのプロジェクトなど、さまざまなケースがあります。
・プロジェクト推進力を高めたい
・プロジェクトを推進できる人材を育成したい
といった方々のお役に立てますと幸いです。
プロジェクトの制約条件
プロジェクトをスタートする時に考慮しなければならないのは「プロジェクトの制約条件」です。
先に定義づけを行ったように、プロジェクトには必ず「ゴール」が存在します。そのゴールに対して、いつまでに達成するのかという「スケジュール=納期」、どのくらいの予算を使うことができるのかという「コスト=予算」、ゴールを定義する「スコープ=範囲」。これらの制約条件はプロジェクトの開始時・主に要件定義の際に策定され、その後変更することが難しい要件です。プロジェクトデザインではこれらの制約条件を元に、どのようにリソースや人員・時間を分配するかが重要な観点となります。
トレードオフ条件の明確化
次に、プロジェクトデザインおよびプロジェクトの推進時に重要となる「トレードオフ条件」を見ていきましょう。「トレードオフ」とは一方を犠牲にしもう一方を選択可能にすることを意味します。プロジェクトでの「両立が難しい」という局面で、どちらを選択すべきかを明確にしておく必要があります。
一般的なトレードオフ要件としては、プロジェクトのアウトプットの「クオリティ=品質」、プロジェクトにかかる費用としての「コスト=費用」、プロジェクト完了予定としての「デリバリー=納期」の3つを挙げることができます。
たとえば品質と費用のトレードオフでは「品質を上げるために費用を追加すべきか?」という課題に対し、品質の高い・低いは費用の増減に影響しますが、費用を増加すれば品質があがるわけでないということに注意する必要があります。
また、品質と納期のトレードオフにおける「品質を高めるために納期を遅らすべきか?」という課題においては、高い品質を追求するためには納期が遅れることを了承せねばなりませんが、納期を遅らせることで品質が上がるわけではないという点を考慮すべきです。3つのトレードオフ要件のうち納期と費用は明瞭なトレードオフであり、プロジェクトに関わる人員やリソースの期間が延長されるため「納期を伸ばせば費用があがる」となります。
この3つの要件のうち、これまで暗黙の了解として「クオリティ=品質」が最優先されがちでしたが、外部環境の変化や不確実性の高さやプロジェクトのアジャイル化によって、さまざまな判断基準が設けられるようになりました。こうしたトレードオフ条件は、経営チームとプロジェクトチームで明確に合意しておく必要があります。
インプット・アウトプット・アウトカム・ベネフィット
プロジェクトデザインにおいては「プロジェクトを通じ、どのような価値を創出するのか?」という観点が重要です。そもそもプロジェクトにはゴールがあり、ゴールを達成すること自体が目的となりますが、その「ゴール」にはさまざまな捉え方があります。
プロジェクトにはプロジェクトを推進するための材料が重要です。これは費用や人員・スケジュールなどを指します。これを「プロジェクトの推進材料=インプット」とします。そうしたインプットに対し、プロジェクトの成果として求められるものは「アウトプット」「アウトカム」「ベネフィット」の3つに分類することができます。
お問い合わせ数の向上を目的としたWebサイト改善プロジェクトを例に考えてみましょう。
1つめの「アウトプット」はプロジェクトによる明確な成果物を指します。プロジェクトでは「改善されたWebサイト」が該当します。しかしプロジェクトで重要なのは「お問い合わせ数の向上」です。Webサイトを改善しただけではプロジェクトの達成ということはできません。
そこで考慮したい成果の2つめは「アウトカム」です。アウトカムは、アウトプットによって獲得された成果を指します。Webサイトを改善することによって、アクセス数やお問い合わせ率の向上が得られ、ゴールである「お問い合わせ数の向上」が達成できた場合、こうした成果を「アウトカム」として定義することができます。
そして3つめの「ベネフィット」は、プロジェクトを超えて組織全体へ及ぼす利益や良い影響を指します。「お問い合わせ数の向上を目的としたWebサイト改善プロジェクト」においては、上述したアウトカムまでの考慮で十分ですが、アウトカムの先にあるベネフィットを定義し、経営チーム・プロジェクトチームとともに合意しておくことをお勧めします。
組織内のプロジェクト推進では、このベネフィットがプロジェクトチームの「評価」に直結する指標になります。このプロジェクトの成功が組織のベネフィットにつながること、それがどれほどのインパクトになるのかを理解し共有することは、プロジェクトデザイン以降のマネジメント・ファシリテーションにおいても重要です。
プロジェクトのフェーズ設計
プロジェクトの目標が大きすぎる、取り組む期間が長い場合は適切な「フェーズ設計」を行いましょう。たとえば半年や1年間などの長期で取り組むプロジェクトの場合、プロジェクト中に起こる想定外の出来事を予想したり、最後に全てのアウトプットやアウトカムを評価することは大変困難です。そのため、プロジェクトを「評価可能なサイズ」に切り分け、プロジェクトの推進を管理します。
このようなプロジェクトの設計は、フェーズゲート法と呼ばれ、プロジェクト計画を通じてゲートや確認要件を設けることで、リスクを防ぎ、プロジェクトの最終結果をよりよいものにする手法です。この手法は製品やサービスの開発で最も使われますが、期間が長い、複雑なプロジェクト全般で役に立つ手法です。
プロジェクトにおけるナレッジマネジメント
次回は「プロジェクトにおけるナレッジマネジメント」についてご紹介させていただきます。
【参考書籍】
・中鉢慎『外資系コンサルが教える難題を解決する12ステップ プロジェクトリーダーの教科書』かんき出版
・グロービズ『ファシリテーションの教科書: 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ』東洋経済新報社
・飯野謙次『仕事が速いのにミスしない人は、何をしているのか?』文響社
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