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【ビジネスモデルイノベーション#02】価値獲得のイノベーション

本シリーズでは3回に渡って、ビジネスモデルイノベーションについてご紹介いたします。


・新規事業創出について検討したいが、どこから始めればいいかわからない

・新規事業チーム内の共通認識を作りたい

・ビジネスモデル構築の基本的な考え方を理解したい


といった方々のお役に立てますと幸いです。


本シリーズ・新規事業創出における方向転換・探索と適応に関する記事の一覧



本稿は、川上昌直『収益多様化の戦略―既存事業を変えるマネタイズの新しいロジック』東洋経済新報社 / 2021年を参考に、収益設計の初学者向けに本書の一部をわかりやすい説明を加え整えたものとなっております。本稿と合わせ書籍もお買い求めいただき、体系的な学習へステップアップしてください。




価値獲得を変革する「利益イノベーション」

これまで、ビジネスの文脈において「イノベーション」という言葉は多くの場合「価値創造」におけるイノベーションとして使われてきました。つまり、どのように「イノベーティブな製品やサービスを作るか」という観点です。しかし、前章まで説明してきたように、従来型の価値創造で利益が生まれるとは限りません。こうした事業環境において継続的に利益を生むためには、価値創造と同じように価値獲得にも変革を起こす必要があります。 ここからは価値獲得のイノベーションを「利益イノベーション」としてご紹介していきます。


GAFAMをはじめとした世界を牽引するデジタル企業の多くは、常に価値獲得に注目し利益イノベーションを実現してきました。利益イノベーションは、業界慣行ともいえる既存の価値獲得から脱し、新たな利益の生み方、持続的な利益の生み方を実現していく取り組みです。 価値創造と価値獲得のイノベーションは下図のように整理することができます。


川上 昌直 (著)「収益多様化の戦略」をもとに筆者作成

横軸は価値創造の進化、縦軸は価値獲得の進化を表しています。当該業界で、品質や価格、顧客に対する価値提供において標準的なビジネスモデルの場合、図左下に位置しています。ここから「価値創造」のイノベーションを推進すると横軸を右へ進める形になります。一般的に価値創造のイノベーションはこうした横軸の変化であるといえます。一方、世界を牽引するデジタル企業の多くが取り組んできたのは、価値創造と価値獲得の両方のイノベーションであり、位置付けとしては右上の領域にあたります。 


右上の領域、価値創造・価値獲得を両立するイノベーションを目指すには2つのルートが考えられます。 1つめは、価値創造イノベーションを実現させたうえで、さらに多くの利益を得ようと価値獲得を目指すルートです。 もう1つは、現状から直ちに価値獲得のための利益イノベーションに踏み切り、それに合致する価値創造が叶うビジネスを見出し構築するルートです。 


価値創造・利益イノベーションを実現する第一歩は、自社のリソースや技術、ビジネスモデルを熟知することであり、これは上述した2通りのルートの両方で必要不可欠です。また、どちらのルートでも理論的に「価値創造・利益イノベーション」へ行き着くことができますが、最初から利益を織り込んで製品やサービスの設計を行うわけではないため、価値創造イノベーションの成功後に利益イノベーションを実現できるとは限りません。すでに経営資産や顧客基盤を獲得している企業の場合は、後者のルート、つまり利益のイノベーションに踏み切り、それに合致する価値創造が叶うビジネスを構築するルートでのイノベーションを推進することが近道であると考えられます。


利益イノベーション起点のビジネス変革の例:マーベル・エンターテインメント

利益イノベーションは、企業を窮地から救い、新たな価値創造に準じたビジネスモデルを産みます。そうしたプロセスを体現してきた企業として、マーベル・エンターテインメントをご紹介いたします。 


マーベル・エンターテインメントは、1939年から続く出版社であるマーベル・コミックの親会社にあたる企業です。出版業界の老舗企業であるマーベル・コミックは経営破綻を経験しながらもビジネスを大きく変化させながら成長を続けてきました。現在では全世界の歴代興行収入のランキングはアメリカンコミックの独壇場です。第1位である2009年の「アバター」に続き、4本もの同社作品が10位以内にランクインしています。 


マーベルのビジネス変革の歴史は大きく3つのフェーズに分けることができます。 




フェーズ1

フェーズ1は創業時からのコミックスの出版を軸としたビジネスです。1939年に設立し早期に成功を収めましたが、本を製作して販売することで利益を生むという意味では出版業界としては一般的なモデルであるといえます。スパイダーマンをはじめ人気のキャラクターを輩出してきましたが、映像化によるファン離れや書籍販売方針の変更に失敗し、1997年に経営破綻を迎えます。 


フェーズ2

フェーズ2は1999年にCEOとして参画した事業再生家によってもたらされました。豊富なキャラクターと彼らのストーリーを抱えるマーベルはIPビジネス=知財管理をスタートさせます。当時マーベルは4700以上のキャラクターを抱えており、強みやリソースを十分に生かした利益イノベーションを実現したと考えられます。その結果X-MENが20世紀フォックスで、スパイダーマンがソニー・ピクチャーズで、ハルクがユニバーサル・ピクチャーでそれぞれ映画化され、多額のライセンスと興行収入益を獲得することに成功し、ビジネスの再建に成功しました。 


フェーズ3

フェーズ3では、フェーズ2で得た収益を元に自社のリスクで映画制作を開始します。映画制作はヒットすれば莫大な収益が得られますが、投資規模が大きく、ビジネスとしては非常にリスキーな領域であるといえます。マーベルが自社での映画製作を開始した理由のひとつに、フェーズ2の知財ビジネスで得られた2つの収益「ライセンス」と「興行収入」では、興行収入益の方が圧倒的に多かったことが挙げられます。映画作品のヒットとキャラクターの重要性に気づいた同社は、ライセンスビジネスの継続によりキャラクターの市場価値を落とすよりも、自社でもう一度キャラクターの価値を高めながら、それに相応しい形でファンに対する価値を創造することを決め、映画制作事業に着手しました。


そうして製作・公開されたマーベルスタジオの第1作目である「アイアンマン」は公開時の全米興行収入で1位を獲得し、後続する映像作品でも多くの成功を収めています。フェーズ3が成果を見せはじめた2009年、ディズニーが42億ドルでマーベルの買収を発表しました。 


このようなマーベルの変革は、苦境にこそビジネスモデルを作り込むことの重要性を教えてくれます。どの企業も例外なく、苦境を迎えた際は資金繰りが何より最優先事項となります。その場合は、とにかく利益イノベーションを最優先する必要があるはずです。ただし、利益イノベーションに主軸をおきながらも、それに応じた価値創造イノベーションを忘れることはできません。


価値創造と価値獲得という2つの要素は、相互依存的な関係でビジネスを成立させています。どちらかが圧倒的に優れていても、両立していなければ「顧客を喜ばせながら、利益を上げる」という、価値創造・利益イノベーションの実現は不可能であるといえます。



次回:収益源の多様化

次回は「収益源の多様化」についてご紹介させていただきます。

 

【参考書籍】

・川上昌直『収益多様化の戦略―既存事業を変えるマネタイズの新しいロジック』東洋経済新報社 、2021年

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